阿佐ヶ谷の赤鬼

 一寸法師がやってきてあなたは鬼だというものだから、わたしは鬼なのかと妙に納得してしまって、しかし、打ち出の小槌など持っていないのだから、やっぱり違うとも思ったのだけど、果たしてわたしは鬼だった。鬼は六畳一間の部屋に住んでいるものなのか。しかも阿佐ヶ谷で。とはいえ、一寸法師がそう言うのだからそうなのだろう。果たしてわたしは鬼だった。

 鬼には角が生えているものだから、わたしにもそんなものがあるのかと思って、頭に触れてみたら角とは言えないまでも、たしかに吹き出物のような何かが、あった。シャンプーしてるときには気がつかなかったのに、不思議なものだ。あると思えばあるもので、ないと思ったらなくなってしまうのだ。触ったらちょっと痛いけど、例えば成長痛みたいなものだと思えば愛しいものだ。いつかは母鬼のようにちゃんと立派な角になるのだろうか。

 窓の隙間から入ったのだという一寸法師を、何故かわたしは昔から知っているような気がした。そういえば、顔がどことなくライリーに似ている。ライリーはわたしが小学生のときに飼っていた犬の名前だ。そしてライリーの顔は、近所の雅治くんともよく似ているのだった。

 雅治くんも東京で働いているらしいけど、それは誰から聞いたのだったか。近所に住んでいたということは、彼もやっぱり鬼なのだろうか。

 一寸法師が打ち出の小槌で大きくなるのは覚えているけれど、彼が一寸であったところの理由がいつまでたっても思い出せない。