ショウコさん

 ジャズをやっていることを教えたことがあったかしらとショウコさんが言ったので、聞いたことがありませんと言うと、当たり前じゃない今日初めて会ったんだからと返された。ショウコさんはジャズをやっている。それも、五年も前からだ。もともとはクラシックのピアニストをしていたらしい。それがジャズプレイヤーになった。旦那さんがドラマーだったからだ。

 ショウコさんの言う通り、ショウコさんと会うのはこれが初めてのことだったので、僕は当然ショウコさんの旦那さんのことは知らなかった。彼がドラマーだということを知ったのは、ショウコさんが言ったからで、もし、ショウコさんが嘘をついたのだとしても、僕はその嘘を見抜くことができなかっただろう。左手の薬指に指輪はなかった。ショウコさんはアルコールの強いカクテルを飲んだ。

 ピアニストだから指輪はしないのよ、というのがショウコさんの答えだった。たしかに、そう言われれば納得がいく。だけど、僕は嘘だと思いたかった。ショウコさんは結婚している。しかし、旦那さんはドラマーではない。

 さしずめ普通の会社員である。きっと食品加工会社の工場で働いている。ショウコさんと彼との出会いは、小学生の頃だ。そのくらいの規模がショウコさんには似合っている。