そびれて

 ユキちゃんに返しそびれたDVDを持って、川沿いの道を歩いていたら、いつのまにか菜の花畑に入り込んでいて、ミツバチが鼻先に止まった。小学生の頃からここを通っているのに、どうしてずっと気がつかなかったのだろう。菜の花はいつも教えてくれていたのに。ユキちゃんから借りたDVDは僕の家のプレイヤーでは再生できなかった。

 川の流れはできるだけゆっくりと。僕は歩調を合わせようとするけれど、先を行く自転車が見えなくなりそうで怖かった。地面を踏みしめる感覚が規則的に伝わってきて、ミツバチが鼻に止まっていることも、ほとんど忘れてしまいそうなくらい。菜の花は穏やかに揺れるけれど、風は頬に触れた、誰かの冷たい指先のようだ。

 ユキちゃんと喧嘩したのは、三日前のこと。大丈夫って言われても大丈夫じゃなくて、信じられないからと写真にハサミを挿れていた。小学生の頃は、ランドセルが隣り合うこともなかったけれど、セロハンテープがあればどうにかなったはずの未来も−−現在もだ。ユキちゃんの部屋のゴミ箱は黄緑色で、上から覗くと空気の厚みが見えた。いっそ空箱のDVDを借りてくればよかったけれど。