浩子ちゃん

 ジェニファーは人形らしい格好をしているからそんな名前で呼ばれているけれど、実は日本人とアメリカ人のハーフで、本名は浩子だ。自分ではとくにジェニファーという名前が気に入っているわけではないのに、みんながそう呼ぶからそれで定着している。人形らしい格好というのは、彼女のおばさんの趣味で、ジェニファーはこのおばさんが昔からあまり好きではない。でも、ジェニファーはおばさんに育てられているから文句は言えない。ジェニファーの両親は、彼女がまだ小さい時に不幸な事故で亡くなってしまった。

 ハーフだと言うと(最近では混血のことをダブルって言ったりするらしいけど)、英語が得意だと思われがちだけど、彼女の場合はとくにそうではない。ジェニファーは川崎生まれ川崎育ちだし、しかも、外国人の血であるところの父親はとっくに亡くなって、日本人のおばさんに育てられたのだから、それは当然のことである。とはいえ、純日本人(この言い方が正しいかどうかは別にしてここではわかりやすいからこう言う)よりは、出来るかもしれない。疑うべくもなく彼女の父親はアメリカ人なのだ。

 ちなみに、浩子という名前をつけたのは父親のほうだ。かつて仕事で日本にきていた父親の初めての恋人が、浩子という名前だったのだ。そんな人の名前を娘につけるのは正直どうかとも思うのだが、ジェニファーには浩子という名前が確かによく似合う。浩子は今年十四になる。