耕平くんのはなし

 コンタクトレンズの洗浄液を買おうと思ってコンビニに行ったら耕平くんに会った。彼は僕の従兄弟なのだけど、母同士の仲が悪いので久しく会っていなかった。どこぞ商社に勤めていると聞いていたのに、どうしてコンビニなんかにいるんだろう? いや、コンビニくらい誰でも行くんだけど、そうじゃないのだ。彼は、耕平くんは、コンビニ店員の制服を着て、レジの内側にいたのだ。

 彼は僕に気がつかなかった。レジにカゴを置いたときに、一瞬目を合わせたのだけど、それでも彼は気がついてくれなかった。本当は気がついていたのかも知れないけど、少なくともそういう顔はしなかった。仕方がないから僕が、耕平くん、と声を掛けると、彼は僕の顔を覗き込み、それから目を細めた。どちら様ですか? と言ったような表情で、なんだか非難がましい感じだった。

「すみませんが、人違いだと思います」

 バーコードをピッとやりながら、耕平くんは素っ気無く答えた。人違いのはずなんてないのだけれど、そう言われてしまうともうどうしようもなかった。すみませんと彼に謝って、洗浄液の代金を支払った。税込みで678円だった。

 家に帰ってコンビニで耕平くんに会ったことを母親に話すと、母親は、ふうん、とつまらなさそうに答えただけだった。僕は何かが間違っているような気がした。コンタクトレンズの洗浄液は買えたのに。

 きっと、もう二度とあのコンビニに行くことは無いのだろう。そして、耕平くんとももう会えないのだ。コンタクトレンズを外して、夕食になるまで少し眠ることにした。僕はワンデーのコンタクトレンズを二週間も替えずに着け続けている。