行進

 兵隊がラッパを吹いて行進、行進。おめめがぱっちり開いていて、いまにも心が飛び出しそう。兵隊の足取りは軽やか。ワンツーワンツー、背中のネジを回したみたい。肩には銃剣を背負っていて、剣先がキラリと光っている。せわしない三丁目の坊やが、割り箸で作ったゴム鉄砲を銃剣だといって威張ってた。僕は見てないフリをして、そっと爆竹を胸ポケットに忍ばせた。夜ごとに泣く僕の胸がきっと怯えてしまわないように。ラッパの音は雄弁なのに、どこか悲しい響きをもっている。それは擦り切れたビデオテープのような悲しさ。車輪がレールに擦れる悲しさ。僕は胸の爆竹を取り出して、一思いにこの宇宙を破裂させてやりたい。そして、泡が弾けた後の静けさで、独り優しい涙を流したい。兵隊のラッパを思い出して、僕は口笛を吹くだろう。頼りない空気を鳴らして、もう一度目を見開くだろう。だから誰かに背中のネジを回してもらいたい。錆び付いたネジを優しく回してもらいたい。

 

(2015年5月17日)