色の島

 色鉛筆で世界を描こうとする河北さんの、その画用紙はまだ白いままである。昨日までは描けていたはずの、鼻の長い像の絵も、黄色いチューリップの絵も、いまはもう描けない。もう一度それを描こうとすれば、線が別の夢を主張するだろう。例えば、それは湖に浮かぶ島の夢かもしれない。河北さんは島の上にいる。

 白い鳥が一羽飛んできて、島の楢に止まった。楢は鳥を支えるのでなく、彼女に寄り添っている。風がふわりと吹きすぎ、葉擦れが囁く。河北さんの描く線が、彼らを夢見ている。

 水色の線で、鳥の輪郭を縁取った。白い鳥である。歌うことを覚えたばかりの鳥である。楢の木は、大きな楽器になっていた。音はただそこにある。その音を、色鉛筆でなぞるだけだ。

 まだ白いままの画用紙に、全てはもう完成されている。世界はいまや色彩の宝箱だ。水色の線で縁取られた鳥が、楢の木から飛び立つ。そこにある音が湖の水面にうつしだされている。