コウキくん

 水道の元栓を閉め忘れて家を出てしまったのは、コウキくんが夢に出てきたからだけど、夢の中のコウキくんは現実のコウキくんよりなで肩だったので、それで気になって水道の元栓のことをすっかり忘れてしまったのだと思う。節約をはじめようとして一週間ばかりが過ぎ、ということはつまり、節約ができないまま一週間が過ぎたということなのだけど、その間、わたしはタカシくんに振られた。味噌汁の味が原因だった、といえばそれらしいけど、そういうわけではなくて、なんとなく飽きたから別れようと言われたのだ。そんなことを言われたものだから、三日間熱が出てしまって、寝込んでいると、コウキくんの夢を見るようになった。

 コウキくんは高校の時の同級生で、いまは何をしているのかよく知らないけど、この前、総武線の車内で見かけて、その時の彼は割といかり肩をしていたのに、夢の中のコウキくんはなで肩だった。そうすると、現実のコウキくんよりもかっこよく見えて、というか、夢の中に出てきた彼が本当にコウキくんだったのかどうかはわからないけど、わたしはなで肩の彼をコウキくんだと思ったのだから、コウキくんなのだった。

 そういえば、タカシくんもなで肩だったけど、どうしてわたしはなで肩の人が好きなのか。やっぱり優しそうな感じがするからだろうか。コウキくんは高校の時、生徒会長をやっていて、校内のイジメを無くそうと頑張っていた。だから、きっとなで肩になったのだろう。