ろけっと

 小学生の頃、ロケット鉛筆を使っている同級生が羨ましかった。なんとなく新しいものを持っているという気がして、羨ましかったのだ。僕はというと、家がどちらかというと保守的だったから、ちびたトンボ鉛筆しか使うことができなかった。いや、もちろんトンボ鉛筆は素晴らしい、素晴らしいのだけど、まだ十歳になって間もない子どもにとってみれば、やっぱり新しいものってだけで欲しくなるものなのだ。僕の小学校はシャープペンシルが禁止されていて、ロケット鉛筆はいわば秘密の抜け穴だった――ロケット鉛筆は「鉛筆」と言っているのだから鉛筆なのだけど、いつでも鋭い線が書けると言う点ではシャープペンシルに準ずるというか、小学生にとってみればシャープペンシルそのものなのだった。僕は鋭い線が書けることが何よりも羨ましかった。トンボ鉛筆も削った直後は鋭い線が書けるのだけど、僕の使っていた2Bの鉛筆はけっこうすぐに先が丸くなってきてしまうのだ。僕はいつだったか、担任の先生に、ヤマカワくんのテストの答案はいつも字が太く逞しくていいですねと言われて、ひどく恥ずかしかったことがある。確かにテストの答案を見てみると、僕の字は野暮ったくて、その癖堂々としているのだった。とりわけ名前をでかでかと書いているのが恥ずかしくて、その日は熱が出た。そして、夜うなされながら、ロケット鉛筆の夢を見た。僕はロケット鉛筆の船内に乗って、人類で初めて火星に降り立った。火星には火星人がいて、細長い手でせわしなく何かを地面に書いていた。見ると、それは僕の名前だった。答案用紙にでかでかと書かれた僕の名前だった。

 

(2015年5月26日)