りんご

 智慧の林檎が空から振ってきた時、僕は妹とあやとりをして遊んでいた。僕はあやとりは東京タワーしかできなかったのだけど、それでもつくってやると妹はきゃっきゃと言って笑い、右の頬に深いえくぼをつくったのだった。そして僕が妹の林檎のように赤いほっぺたに見とれていたちょうどその時、雲一つない空からうら若い林檎の実が一つ、僕らの頭上へ落ちてきた。林檎は僕の鼻先を掠めると、ちょうどあやとりの糸の上に落ち、僕はそれを図らずもキャッチした。妹がきゃっきゃと言って笑っていた。まだ青みの残る林檎は赤い糸を纏い、そして、その頼りない糸に抱かれているのだった。

「コンニチハ」妹が言った。

――コンニチハ。

「オハヨウゴザイマス」

――オハヨウゴザイマス。

「オヤスミナサイ」

――オヤスミナサイ

「サヨナラ」

ーーサヨナラ。

 

(2015年5月13日)