抱擁を交わしたそばから林檎は爛れ、長針が短針を通り越す。あとに残った淡い香は、ホットミルクに溶かされて、白熱灯の光を反射している。いま、彼女はロングコートを脱ぎ捨てて、ベランダの花壇に水をくれる。背中に椎骨が浮き出て、肩甲骨が不気味に上下…
耳を貸さないお前の口を貸せ。お前の口で、何を言おうか、否、何が言えるか。それでも耳を貸さない頑ななお前を、熱く抱擁する明るい月。仄暗く、しかし、照らし出された、お前の鼻。確かにモアイ像に見える。溶けかかって、砂を零す。(2015年6月15日)
引用をストックしました
引用するにはまずログインしてください
引用をストックできませんでした。再度お試しください
限定公開記事のため引用できません。